x days ago

Written by Chisato. No reproduction or republication without written permission.

「ラスティはCランチ」
 メニューを見てすぐ、確認するような口調でが言った。
 俺はにっと笑う。
「さっすが。分かってるじゃん」
 そう言って右手を軽く上げると、白くて華奢な手がパチンと音を立てて重なった。
「イザークは?」
 が首をかしげた。イザークは少し考える素振りをし、口を開く。
「Bで頼む」
「分かった」
 は頷き、アスラン、ニコル、ディアッカと注文の列へ並びに行く。俺はイザークと席を取りに歩きだす。食事と飲み物を運ぶ係と席を確保する係でわかれるのも、その組み合わせも、言い交わしたんじゃなくて、なんとなくできあがった決まりだ。
 食堂は人と話し声といろいろなにおいで混雑していて、こりゃあ今日も席を取るのが大変そうだ。一人や二人ならともかく、六人がまとまって座れる場所はなかなかない。席から席へ視線を滑らせる俺に、イザークが口を開く。
「やはり不思議だな。あいつはお前の頼む物をいつも言い当てる」
「ああ。あれ、すごいっしょ」
 俺は自分が褒められたみたいに嬉しくなり、口角を上げた。は贈り物の達人だ。些細なものから形のないものまで、俺のほしいものを驚くほど正確に届けてくれる。あたかも針の穴に糸を通すように。
 何をなくしても世界が決して終わらないことを俺が本当に知ったのは、両親が離婚したころだ。父親は確かに大切だったのに、それがなくなった空洞を抱えたまま、昨日の続きが当たり前にできて少し愕然とした。空洞が埋まらずとも生きていける頑丈さが、冷酷に感じられた。ところが、はこの話を聞き、その頑丈さは頼もしくもあるよ、とさらりと言った。そして、だって、その頑丈さが私たちを引き合わせてくれたんだよ、と続けて、やわらかな朝日のように微笑んだ。眩しかった。そんなのきれいごとじゃん、と反論する気には不思議とならなかった。はいい子ちゃんぶってるんじゃなくて、本当に無意識で言葉を紡いでいるように感じられた。
「ふとしたとき、俺にはがいればいいやって思うんだよね。あ、以外がどうでもいいっていうわけじゃないぜ。ただ、たとえどんなことがあってもさえいればなんとかなる、みたいな? 安心感っていうかさー。おっ、あそこ空きそう」
 二人分の空席の横に座っている四人組がトレーを手に席から立ち上がるのを見つけて、俺はすいすいと足を進める。
「お前たちはニコイチってやつなんだろう」
 椅子を引くイザークの口から予想外の言葉が出てきて、思わず吹き出す。
「ニコイチなんて似合わない言葉、どこで覚えてきたんだよ。あと使い方が変」
「うるさいっ。言葉に似合うも似合わないもあるか! ディアッカが言っていたんだ!」
 イザークはくわっと口を開けた。毛を逆立てて威嚇する猫と似ている。俺はけたけたと笑い声を上げた。

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