もうひとりのルーキー

This Fanfiction Was Written by Chisato. Please Don't Reproduce or Republish without Written Permission.


 リョーマと遠山くんの試合を見る前に、青春学園対四天宝寺中学校の準決勝戦は決着がついてしまった。東西のルーキーの試合を楽しみにしていたから少し残念な気持ちになって、わたしは心の中でひっそりとため息をこぼす。
「あり……ワイは? ワイ、まだコシマエと戦ってへんでぇ」
 遠山くんが声をあげた。無邪気な笑顔から早く戦いたいという気持ちが感じられる。
「金ちゃん、すまんばいね。負けや!」
 と言って、元九州二翼の千歳くんが眉を下げる。
「ウソや〜。第五試合、ワイとコシマエの試合残ってるやろ?」
「終いや」
 四天宝寺中学校の部長の白石くんが告げた。でも遠山くんは納得がいかないようで地団駄を踏んでいる。
 あんなにまっすぐな気持ちでリョーマとテニスをしたいと思ってくれる人が、どれくらいいるんだろう。そう考えたら、なんだかいてもいられなくなって、わたしは応援席に歩いてくるリョーマへ声をかけた。
「リョーマ! 一球だけ、勝負してみてもいいんじゃないかな?」
 リョーマは足を止め、わたしと遠山くんを見比べる。
「……別に、一球だけならいいけど」
「コシマエ、おおきにっ! 姉ちゃんもおおきに!」
 喜びを全身で表すみたいにぴょんぴょんと跳ねて、遠山くんは笑った。それからすぐストレッチを始める。そういえば、立海大附属中学校も今日が準決勝戦だった。精市くんの様子からして負けることはなさそうだから、多分、次は青春学園と立海大附属中学校が戦う。そのとき、わたしが応援するのは――。
「よっしゃー。コシマエ〜ッ、いつでもいいでぇ!」
 遠山くんの声にはっとして、いつの間にか俯いていた顔を上げる。
「……んじゃ、遠慮なく」
 と言うが早いか、リョーマはいきなり右でツイストサーブを打った。言葉通り、これっぽっちも遠慮がない。三角座りの体勢でくるくると回って、遠山くんがテニスボールを返す。リョーマはとっさに動けなかったけれど、無我の境地を使ってラリーを続けた。これまで見てきたたくさんの技を繰り出すリョーマと、まるで野生の動物のように縦横無尽に駆け回る遠山くんは、ほぼ互角の強さに見える。一球勝負なのに四十分も続いて、終わる気配がない。
「運命的にお互い何か感じ取ったんだろうね。絶対この相手には負けられない……。たとえ一球勝負でも」
 不二くんが言った。わたしは頷く。でも、リョーマに無我の境地の副作用が表れたところで四天宝寺中学校の先生が声を張り上げた。
「金太郎、もう止めやーっ!」
 そう言われた遠山くんは技の構えに入っていて、聞こえていないらしい。輝く目には、おそらく黄色の一球しか映っていない。それがまるでリョーマみたいで、わたしは口角を上げた。テニスって楽しいよね。精市くんも、きっと楽しそうにボールを追うんだろうだろうなあ。
「スーパーウルトラグレートデリシャス大車輪山嵐!」
 遠山くんが明るく言い放った。ボールはものすごい勢いで飛んでいって、ドオンという音と一緒に強い風が起こった。わたしはとっさに腕で顔を覆う。しばらくすると、腕の隙間からもくもくと立ち込めた土煙の先がうっすらと見えてきた。真っ二つに割れたボールを見つけて、遠山くんはきょとんとした表情で首をかしげている。
「あり? 半分やんけ」
 わたしはなんだかおかしくなって笑った。
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