I don't know what to say, and I can't imagine how you feel

Written by Chisato. No reproduction or republication without written permission.

 目が覚めて時計を見ると、中途半端な時刻だった。まあ、どうせ宇宙にいるんだからどの時間帯だってたいした差はないんだけどさ、バイロットは体が資本っていうから体調管理には気をつかっちまうんだよなあ。それにしても本当に変な時間に起きちまった。どうすっかなー、とひとりごちて思い出す。そういえば機体の確認がまだだったな。今からやるか。
 格納庫を目指していると、オルゴールの音が聞こえてきた。俺が行く方向に音源があるのか、その音はだんだんはっきりしてくる。こんな時間に誰だあ? と訝っていたら見知った背中を見つけた。よう、と声をかける。
「…………ハイネ」
「おいおい、どうしたんだよ。泣いてんのか?」
「うん、まあ、そうかな」
「そうかなって、そうだろ」
 赤い目のはそれにうん、と頷いて、あのね、と話始めた。
「実はさっき同期から連絡がきて、仲のいい同期が一人亡くなったって知ったの。それで泣いてた。最初は部屋にいたんだけれど、人は死んだら星になるっていうでしょう? だから外が見えるここに移動してきたの。あの、でも、これがはじめてじゃないから大丈夫だよ。今日、あれ、もう昨日かな? に、亡くなった同期はニコルっていうんだけれど、今年の一月にもラスティっていう同期が亡くなっていて、ラスティのときがはじめて経験する特別な人の、死、だったから今回はまだ免疫があるの」
「免疫があるってなんだよ。仲間の死に耐性なんかつけてどうすんだ。それにお前、つよがんの下手すぎ。んな顔で大丈夫って言われたって信じらんないね」
「……敵わないなあ。うん、あの、ほんとうはすごくかなしいし悔しいの。わたしはパイロットじゃないからみんなみたいに地球軍を倒せないでしょ。メカニックなんだから、機体をパイロットが安心して乗れるように整備するのがわたしの戦い方っていうのは分かってるよ。でも、もし、わたしがパイロットだったら二人が生きてる未来もあったのかなあ。な、なんでパイロットになる道を選ばなかったんだろう。このオルゴールはニコルがくれたものなんだけれど、ちゃんとしたお礼ができず終いのままなの。ニコルはこんなにすてきな世界一の黄色をプレゼントしてくれたのに、わたしが何を好きなのか分かってくれていたのに、わたしはニコルが好きだったものをちっとも知らないの。ピアノが好きだったっていうことは知っているけれど、それもニコルはピアニストだから誰でも予想できるようなことなんだよ」
 俺はそうか、とだけ言って頷いた。がまた口を開く。さっきこいつと連絡を取っていた同期がこう教えてくれたそうだ。
 はとびきりメルヘンなオルゴールをもらったとき、お礼に料理をするっつー約束をしたものの今すぐに何かしたいと思ってポケットに入っていた飴をあげたんだが、そいつはそれを食べずにお守りとして肌身離さず持っていたらしい。あと、連絡をくれた同期がそいつのロッカーを開けたら「」っていうタイトルの楽譜が出てきたんだってさ。
 は飴なんか食べてしまえばよかったのにね、とか、わたしの名前の曲をつくってたってちょっとできすぎだよね、とか言って苦笑する。これがパイロットなら、割り切れよ。今は戦争で、俺達は軍人なんだからさ。でないと、死ぬぞって渇を入れるんだろうけど、こいつはメカニックだ。それにこんなに弱ってる。言えねえよ。しかもハイネはおじいちゃんになるまで生きてね、しわしわになったわたしとあの頃はーって笑い飛ばしてね、なんて頼みやがる。ったく、ニコルってやつ、にこんな顔させてんじゃないよ。

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