May Rey's soul rest in peace

Written by Chisato. No reproduction or republication without written permission.

「少し、いいですか」
 わたしがアスランの脱走に茫然としていたとき、レイと二人で、食堂の椅子に腰かけて話したことがあった。彼の口にする言葉が衝撃だったし、彼が自分のことを教えてくれるなんて珍しかったからはっきり覚えている。
 まず、レイはクローンで、テロメアが短いため長く生きられないこと。次に、同じクローンの人が死んでいること。この二つの告白になんと応えたら正しいか分からなくて、わたしは、ただ、思ったままのことを声に出した。
「命は、なんにだって一つだよ。だから、今わたしの目の前にいるのはレイで、その亡くなった人じゃない。レイはレイだよ。わたしは、レイはみんなとどこも変わらない、ただの一人の人間だと思うなあ」
 レイは、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をした。それから、アカデミーの頃のこととか、ピアノが弾けることとかを聞かせてくれた。ピアノの話は辛かった。というのも、ニコルを思い出してしまったからだ。彼のことは決して忘れたくないし、なかったことにはしたくないけれど、その記憶を呼び覚ませるほどわたしは強くない。変な表情をしてしまったからか、レイは心配そうにこちらを伺った。なんでもないの、と言いかけて、口を閉じた。そして、ニコルのことを話した。誤魔化したくなかったのだ。
 その日から、レイは、整備作業を終えたわたしにドリンクの差し入れをくれるようになった。うんと疲れた日はあたたかいココアで、喉がからからに乾いていた日はスポーツドリンクだった。それに、ありがとう、と言って笑うと、彼は嬉しそうな顔をした。幼い子どものような姿で、思いきり抱きしめたい衝動にかられた。
 シンとルナマリアは、そんなわたしたちを見て不思議そうな顔をしていた。

 メサイアが落ちた日、艦長から総員退艦、と命令があって、わたしはミネルバをあとにした。シャトルの窓から見えた、たくさんの帰艦信号とそれに向かっていくモビルスーツの光がやけに眩しくて、鼻がつんとした。わたしたちは、どうしてこんなところへきてしまったんだろう。そう思った。

   山のあなたの空遠く
   「幸」住むと人のいふ。
   噫、われひとゝ尋めゆきて、
   涙さしぐみ、かへりきぬ。
   山のあなたになほ遠く
   「幸」住むと人のいふ。

 レイは、あの光を見たのだろうか。あの子は、最期の瞬間、怖くなかっただろうか。願わくは、レイが安らかに眠っていますように。

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