Tomorrow

Written by Chisato. No reproduction or republication without written permission.

「トリィ!」
 ラクスとオーブの岬にある小さな慰霊碑へ行くと、アスランとメイリン、黒髪の男の子とクラレットのショートヘアーの女の子、それから、色の白いすらりとした女性がいた。
「来てたんだ」
 僕はアスランに言った。
「ああ」
 アスランが応えた。
 視線を感じるなと思って、そちらへ顔を向けると、黒髪の男の子と目が合う。僕は、彼と一度だけ会ったことがある。
「シン、彼がキラだ」
 アスランが彼に言った。シンくんというらしい。アスランは言葉を続ける。
「キラ・ヤマト。フリーダムのパイロットだ」
 えっ!? とシンくんと名前の分からない二人が驚いた。女性が視線をさまよわせながら、口を開く。
「じゃあ、あなたは……」
、キラは」
「ううん、アスラン、彼と話をさせて」
 と呼ばれた女性はぴしゃりと言い放った。ああ、と頷いてアスランが彼女の横から一歩下がる。
「キラくん、あなたは、二年前、ストライクに乗っていましたか?」
「はい」
「じゃあ、ブリッツを」
 ブリッツ。その言葉を聞いて、オーブ近海での戦闘がよみがえる。
「ブリッツの……」
「……はい、ブリッツの、パイロットは、僕が殺しました」
 そう言った途端、さんに胸ぐらを掴まれる。拳が振り上げられた。僕は、きっと、これを受け止めなければならない。
「なんで」
 そう呟いて、さんは腕を下げていく。
「なんで、ころしたりなんか、したの。あ、あの子は、ほんとうに、優しくて、操縦桿よりも、鍵盤のほうが似合う、そ、そんな手をしていたんだよ。どうして、ニコルが、死ななきゃならなかったの……」

 女の子が涙を流すさんの背に手を添える。
「まだ十五だった……! 生きていたら、こ、ここにいる、ルナマリアと、お、同じ歳になっていたのに」
 さんは、僕から手を放して膝から崩れ落ちた。
「それに、も、もしもあなたに会えるのなら、絶対に殴ってやるんだって決めていたのに、あなた、わ、わたしたちとちっとも変わらない、普通の人で、これじゃあ、わたし、殴れないよ……」

「取り乱してしまって、ごめんなさい」
 さんは言った。
「はじめまして、です。アスランとはアカデミーの同期で、メカニックとしてミネルバに乗っていました」
 さんは手を差し出した。僕はそれをしっかりと握る。
「キラです。キラ・ヤマト。アスランとはコペルニクスの幼年学校で仲良くなって、それから、いろいろあったけど、友だちです」
「アスランの友だちだったの? キラくんもアスランも、たいへんだったね。たくさん悩んだでしょう?」
 僕はアスランと顔を見合わせて、ええ、まあ、と苦笑する。
「これからは、明るい明日にしようね」
 さんが赤い目で笑った。
 明日。レジェンドのパイロットが託してくれた未来だ。
「はい」
 いくら吹き飛ばされても、僕らはまた花を植えよう。

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