入院生活三日目

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 美人は三日で飽きてブスは三日で慣れるというけれど、この入院生活で、病院は三日で飽きもするし慣れもすることを知った。わたしは今とても退屈している。
 午前中はベッドに横たわって『パンドラの匣』を読んだり、『ゴルコンダ』に描かれている人の数を数えたりしていた。
 お昼ご飯には大根の葉が入ったお粥を食べた。病院食はあまりおいしくなさそうだと思ったお母さんが作って持って来てくれたのだ。とても優しい味がした。今晩は湯葉を使ったお粥を作ってくれるらしい。リョーマに持たせるから二人で食べてね、と言ってお母さんは帰っていった。
 それからいろいろな検査をした。わたしはアトピーでもなければ花粉症でもないし、アレルギーもなく、突き指をしたことすらない。そんなふうに何にも脅かされず、すくすくと育ってきたものだから、いろいろ調べられるのはどきどきした。点滴の管が腕に刺されるときに至っては、心臓がばくばくと暴れた。
 腕に繋がれた細いチューブを見る度、不思議な気分になる。
 一眠りでもしようかとまぶたを閉じた。眠りに落ちるときの気持ちは変なものだ。魚が釣糸を引っ張るように、なんだか重い、鉛みたいな力がわたしの頭をぐいぐい引いて、わたしがうとうとすると、糸をゆるめる。わたしは、はっと気を取り戻す。また、ぐっと引く。うとうとする。それを三四回くり返して、はじめてぐうっと大きく引いて、今度は――。

 ぱちっと眼が覚めるなんて、あれは嘘だ。本当は水溶き片栗粉に近い。片栗粉を水に溶かせば、澄みきった液体は白く濁る。白濁した溶液を放置すると、だんだん、でんぷんが底に沈み、少しずつ上澄みが出来る。そんなふうに、わたしはゆっくりと目を覚ます。
 起きたばかりのときはたいてい喉が乾いている。今もそうだ。意識は休んでいても、体はずっと働いている。水分を取らなくちゃと思い、キャビネットの上の水筒を手に取った。軽い。蓋を開けると空だった。何か買いに行こう。そう思って、ミッフィーちゃんのジビッツがついている、オレンジ色のクロックスをはく。点滴スタンドのポールを握った。ひんやりとしている。
 そういえば売店に行くのはこれがはじめてだなと考えながら、扉を引いた。
「わっ」
「えっ」
 前者は中学生くらいの男の子の声で、後者はわたしのそれだ。わたしの病室の前には、背の高い男の子が一人立っていた。
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