フィフティーン・ルーティーン

This Fanfiction Was Written by Chisato. Please Don't Reproduce or Republish without Written Permission.


 わたしたちは友だちである。
 そう自分たちの関係に対する共通の認識を持ってから、わたしと幸村くんは毎日歓談するようになった。場所はいつもホテル雫石だ。
 実のところ、鏡の中のわたしは顔色がかなり悪い。そして、体もものすごくだるい。もう身も蓋もないくらいだるくて、精神的にずっしりと落ちこんでくるような感じだ。なんにもしていなくても、自分の体から水みたいにエネルギーがどんどん零れていってしまって、ぐっしょり濡れたぞうきんみたいなものだけが体のうちに残っている、そんな気持ちの悪さもある。
 動けないわけでもないのにただじっと横になっているのも嫌だから、起き上がって本を読んでみるけれど、それすらだるくて結局ふとんに潜ってしまう。
 もちろん、あの友だち宣言の日もそうだった。ホテル雫石に帰るまでは全然分からなかったのだけれど、わたしはどっと疲れていた。屋上に行って話しただけなのに、全てのエネルギーが尽きたというふうだった。その夜は泥のように眠った。
 そして、次の日それに気づいた幸村くんが、今度からは越前さんのホテルで話しませんか? と提案してくれたのだ。その細やかな気配りにも、病室と言わずにホテルと言ってくれたところにも、わたしはじいんとした。
 実際は死にかけただけだから、厳密にいうと違うのだけれど、死と隣合わせに生活している人には、生死の問題よりも一輪の花の微笑みが身に沁みるとはこういうことなのかなあとも思った。普段はなんでもないはずのことが、とても特別で、尊いものに感じられた。

 十五時になりホテル雫石の扉がノックされる。きっと幸村くんだ。幸村くんはいつもこの時間ぴったりにやって来る。
「はい、どうぞー」
 白いふとんの中からわたしは言った。扉が引かれる。
「こんにちは」
「こんにちは、幸村くん」
 目を合わせて、わたしたちはにっこり笑った。こちらへ歩きながら幸村くんが訊く。
「越前さん、りんご好きですか?」
「うん」
 わたしは応えた。
「本当ですか? よかったあ」
 そう言うと幸村くんはベッドの横の椅子に座り、紙袋からりんごを二つ取り出した。
「今日、母と妹が持ってきてくれたんです。母はむいてくれようとしたんですけど」
 と言って幸村くんは視線を落とす。けど、なんだろう?
「越前さんと食べたいなと思って、そのまま置いて帰ってもらいました」
 幸村くんははにかんだ。
「そうなの? うわあ、ありがとう」
 わたしは嬉しくなってにこにこした。幸村くんは焦ったように、いえ、とだけ応えて、青磁のお皿と二本のフォークをベッドに備え付けの机に並べる。
「わたし、むこうか?」
「あ、大丈夫です。僕がやります」
 そう言って幸村くんは果物ナイフを手に取り、りんごを切り分けはじめる。
 おお、ちっとも危なくない手つきだ。慣れているのかもしれない。そんなふうに思いながらわたしがじっと見ていると、幸村くんがおもむろに口を開く。
「ミッフィーがどうしていつも正面向きか、知ってますか?」
PREV BACK NEXT

inserted by FC2 system