エースとフェンスの向こう側
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「ほうらラフだろ」
清純くんが言い、続ける。
「でもやっぱりサーブあげるよ! 今日は北東の方角がラッキーだからそっちのコートでリターンもらおっかな」
わたしは都大会の決勝戦を見に来ていた。対戦校は青春学園と山吹中学校だ。清純くんは山吹中学校の選手で、わたしはコートに着いてびっくりした。でも以前のように冷や汗が流れたものの、動けなくなることはなかった。
今のところ青春学園はダブルス・ツーが黒星、ダブルス・ワンが白星となっている。
山吹中学校側の、緑色のヘアバンドをした男の子から声が上がる。
「さすがラッキー千石先輩です! 強運の持ち主です!」
このシングルス・スリーの勝敗が決勝戦全体の流れに影響してくるということと、清純くんは山吹中学校のエースということでコート一帯が沸き立っていた。清純くんはジュニア選抜に選ばれた経験もあるし、動体視力も優れていてすごいプレーヤーらしい。一方、青春学園の桃城くんはダンクスマッシュが武器なのだそうだ。後者はリョーマが教えてくれた。
「ふーん、ラッキー千石……」
リョーマが呟く。
遠慮したのだけれど、今日も俺のテニス見ていくんでしょ、よく見えるここにいればいいじゃん、とリョーマから言われ、わたしは青春学園の部員に混じってフェンスの近くで観戦している。
審判の声が響く。
「ザ・ベスト・オブ・ワンセットマッチ。青学、サービスプレイ」
試合は桃城くんの弾丸サーブから始まった。それを清純くんが受け止め、返す。桃城くんも打ち返す。二人は互角に戦っているように見えた。
桃城くんが前に出る。清純くんはパッシングでその左側を抜こうとしたが、桃城くんがボールを捉える。
すごい瞬発力だ。
「おおっ、飛んだー!?」
桃城くんのジャンプに山吹中学校側がざわめく。
「ダンクスマッシュだ!」
誰かの明るい声が上がった。
「どーん」
と言って、ポイントをきめた桃城くんが不敵に笑う。桃城くんは完全にペースをつかみ、サービスをキープした。
清純くんはロブを上げたかと思うと、ダンクスマッシュを打つ。そこで流れが変わった。清純くんは自分のダンクスマッシュを衝撃的に演出するため、あえて緩急をつけたようだった。
「この練習用ラケットじゃガットが緩すぎてスピードが出ないなあ。んじゃ、そろそろ試合用でいくぞ、オモシロくん」
清純くんがにっと笑う。
試合は目まぐるしく進み、清純くんがワンゲームめをとる。
「ふーん、やるじゃん」
リョーマが言った。
チェンジコートのあと清純くんがサーブをする。清純くんは、トスを高く上げた。それに驚いているのはわたしだけでないようで、いろんな人の声が聞こえてくる。
「あ、あんな高くトスを!?」
「まさかあの高い打点から!?」
清純くんは体をめいっぱい使って、高い打点からボールを打ちおろし、最短距離のセンターに叩き込む。
審判がコールする。
「フィフティーン・ラブ」
青春学園の眼鏡をかけた子によると、あれは虎砲というサーブなのだそうだ。虎砲は速いし、軌道が見えづらい。サーティ・ラブ、フォーティ・ラブと清純くんがリードしているところで、桃城くんが虎砲を返した。試合はスリー・オールになり、青春学園側が沸き立つ。
「すげえ互角だあ! 桃先輩いけえ、一本先行だー!」
ファイブゲーム・トゥ・スリー、山吹リード、という審判の声が聞こえたとき、わたしは桃城くんの異変に気がついた。左足が痙攣している。大丈夫かな。
山吹中学校側も気づいたようで、ひとりが桃城くんを指差す。
「お、おい、見ろよアイツ! 左足痙攣してるぜ!」
清純くんは一瞬だけラッキーという顔をしたけれど、はっとして、他人の不幸を喜ぶのはいけないというふうに首を横に振った。それは正しかった。
そのあと桃城くんは、ジャックナイフで清純くんのラケットを弾き飛ばしたのだ。ジャックナイフはいわゆるジャンプしながらの両手バックハンドショットで、そう簡単に中学生が打てるものじゃない。桃城くんは左足を痙攣しているのに、強くなっていた。虎砲もきっちり返している。
審判のコールが響き渡った。
「ウォンバイ青学、桃城。セブンゲームス・トゥ・ファイブ!」
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