王者の名前を背負う者

This Fanfiction Was Written by Chisato. Please Don't Reproduce or Republish without Written Permission.


 七月二十七日、晴れ、気温二十六度。すかっとした青空の下、全国中学生テニストーナメント関東大会決勝戦、立海大附属中学校対青春学園が行われようとしていた。
 わたしが精市くんの学校の試合を見るのはこれがはじめてだ。都大会初戦を境にすっかり定位置となった、レギュラーに混じって試合観戦ができるところへ腰を下ろす。コートへ目をやると両校の選手がネットを挟んで整列していた。
 精市くんが手術を決意してから、わたしたちはたまにテニスの話をするようになった。青春学園のルーキーといわれるリョーマを弟にもつわたしが聞いていいんだろうかと心配になったけれど、精市くんはにこにこと笑ってチームメイトについて教えてくれることもあった。精市くん曰く、精市くんが少し喋ったくらいで負けるプレーヤーじゃないらしい。俺がいなくてもいいチームだよ、とも言っていた。精市くんはチームに全面の信頼を置いているみたいだった。でも、わたしは精市くんがいなくてもいいチームというのに引っかかりを感じて、それじゃあ、部長の精市くんが戻ればもっといいチームになるね、と言った。精市くんは目を丸くし、嬉しそうにはにかんだ。
「ただいまより関東大会決勝戦、立海大附属対青春学園の試合を始めます!」
 審判の声がコートに響く。
 わたしは精市くんの話と立海大附属中学校の選手を照らし合わせていく。髪の赤い子はボレーのスペシャリスト、丸井ブン太くん。色黒の子はブラジル人ハーフで卓越した守備能力を誇る、ジャッカル桑原くん。銀髪の子は最も怖いコート上のペテン師、仁王雅治くん。眼鏡をかけているのはジェントルマン、柳生比呂士くん。それから黒髪の癖毛の子は二年生エース、切原赤也くん。身長が一八〇センチくらいありそうなのはマスター、柳蓮二くん。そして今中学テニス界で最も強い、皇帝、真田弦一郎くん。
 その八人が一斉にリョーマを見る。
「ん?」
 リョーマは首をかしげた。
 すると全員同じタイミングでそっぽを向く。
 そういえばこの前リョーマがすごくボロボロになって帰ってきたことがあった。あの子、何をしたのかな。
「両校部長は前へ!」
 審判が言った。
「よろしく」
 真田くんが前に出る。
「よ、よろしくっ。王者立海に胸を借りるつもりで……」
 大石くんは、はたと言葉を止め、キッと真田くんを見る。
「俺たちは勝つために来た! 青学はキミら立海に勝って必ず優勝してみせる!」
「ほう」
「うあーっ!? ……あっ……いや」
 大石くんは、思わず王者に勝利宣言をしてしまったと焦っているふうに見える。しかし大石くんが困ったように青春学園のレギュラーを振り返れば、レギュラーはみんなよくやったと笑っていた。わたしも心の中でくすりと笑みをこぼす。ファイト!
「常ー勝ー立海大!」
「レッツゴーレッツゴー立海大!」
「いっぱつ決めてやれっ。オーッ!」
 立海大附属中学校の応援団の声がこだまする中、ダブルス・ツーの丸井くん、桑原くんペア対桃城くん、海堂くんペアの試合が始まる。ボレーのスペシャリストというだけあって丸井くんのプレーはすごかった。ボールをネットの白帯に当てて、ネットの上を綱渡りをするみたいに転がって落ちるように打つ綱渡りや、ボールをネットを張るための鉄柱に当てて軌道を変え、コートに落とす鉄柱当てなど、今まで見たことのない技が出てくる。
「どう? 天才的?」
 丸井くんが不敵に笑う。
「ゲーム立海! フォーゲームス・トゥ・ラブ!」
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