かつての精算

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「あちゃーっ。フォーゲームス・トゥ・ラブ! 手も足も出ずか……」
 と聞き覚えのある声がして振り返る。
「清純くん」
「やあ」
 清純くんの後ろにいた、わたしがポカリスエットとレシートを託したことのある子が頭を下げる。
「越前くん、お姉さん、お久しぶりです!」
「ああ……ども」
 リョーマが言った。
「久しぶり」
 わたしも応える。
ちゃん、壇くんからポカリとレシートもらったよ。ありがとう」
 千石くんは喋りながら隣に座った。ヘアバンドの部員は壇くんというらしい。
「壇くん、ありがとう」
「どういたしましてです!」
 わたしは清純くんの顔を見上げながら口を開く。
「あれくらいしか渡せなくてごめんね。それに直接謝れなくて。はじめて会ったとき、驚かせてごめんなさい」
「俺も無神経だったよ。ごめん。……敗者復活戦で山吹中も全国行けることになったから、よかったら見に来てよ。今度こそかっこよく決めるからさ」
「ふふ、都大会のときもかっこよかったよ」
 わたしは笑った。
「なんの話?」
 リョーマが不機嫌な声を出す。
「うーん、ちょっとね」
「そうそう」
 千石くんと顔を見合わせて二人で肩をすくめる。リョーマはわたしが清純くんに泣かされたことは知っていても、都大会初戦の日に謝ってもらったこと、それに返事ができなかったこと、決勝戦のあとポカリスエットとレシートを清純くんに渡すよう壇くんに頼んだことは知らない。
「お姉ちゃんにもいろいろあるの」
「……あっそ」
 リョーマは拗ねたみたいにコートへ視線を移す。それに倣うよう清純くんも試合に注目し、ぽつりと呟く。
「頑張ってるじゃん、アイツ……」

 試合は目まぐるしく進み、審判の声がこだまする。
「ゲームセット。ウォンバイ立海! シックスゲームス・トゥ・ワン!」
 丸井くんと桑原くんのペア対桃城くんと海堂くんのペアは前者が白星をおさめた。
「ゲームセット。ウォンバイ立海! シックスゲームス・トゥ・フォー!」
 そして仁王くん、柳生くんのダブルスが大石くん、菊丸くんのゴールデンペアに勝利する。仁王くんと柳生くんはお互いに入れ替わったまま試合をしていて驚かされた。さすがペテン師、仁王雅治という感じだった。
 そういうわけで立海大附属中学校は二勝し、 早くも優勝に王手を掛けている。
「よっしゃー、二連勝!」
「立海! 立海!」
「あと一勝! あと一勝!」
 相変わらず勢いのある応援団の声が響いていたが、とうとう青春学園に光が見える。
「ゲームセット。ウォンバイ乾。セブンゲームス・トゥ・シックス!」
 柳くん対乾くんの試合で、乾くんが勝ったのだ。青春学園側が大いに沸き立つ。堀尾くんなんかは、王者立海から一勝もぎ取った! 凄すぎっス、と言っておおはしゃぎだ。
 乾くんは力という力をすべて出しきったという様子でしばらく休んでいたが、ふいに口を開く。
「どうやら立海の部長は今日手術を受けるらしい」
 びくり。わたしの肩が跳ねる。
「えっ、手術……!?」
 一年生の三人組は目を丸くした。
「だからそれに間に合うよう、早いとこ青学を倒したかったんだろうな」
 大石くんが頷く。
「ええーっ、あの黒い帽子のエラそうな人が部長じゃないんスか!?」
 堀尾くんがすっとんきょうな声をあげる。乾くんは説明を続けた。
「立海大附属には一年からレギュラーだった真田、柳、そして幸村という三人の天才がいたんだ。その三人を中心に全国無敗で二連覇をあっさりやってのけ、磐石の体制で今年も三連覇をという矢先……昨年の冬、部長の幸村が突然倒れたと聞く」
「しかし立海は戦力が衰えるどころか、それ以上に勝ちにこだわり始めたようだ」
 大石くんが厳しい面持ちになる。
「負けることの許されない王者立海の掟……」
 と呟いて不二くんは手を顎に添えた。
「青学! 青学!」
 わたしは声援を聞きながら空を仰ぐ。
 奇妙なことに、わたしと精市くんが友だちだということを、ここにいる誰ひとりとして知らない。
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